2026年4月施行「6か月前の事前届出」制度を阪神間目線で整理
2026年4月1日に改正医療法が施行され、「外来医師過多区域」で無床診療所を新規開設する場合、開業の6か月前までに都道府県へ事前届出を行うことが義務化されました。要請に従わない場合は保険医療機関の指定期間が短縮されるなど、開業後の経営に効いてくる仕組みです。
阪神間で新規開業を検討される先生向けに、2026年4月時点で新制度の対象となる大阪市・神戸市にフォーカスして整理します。豊中・吹田・西宮・尼崎などで開業を検討される先生向けの注意点も後半にまとめました。
1. 似て非なる「2つの区域」
従来からある「外来医師多数区域」(2020年度~)
• 外来医師偏在指標の上位33.3%に該当する二次医療圏
• 新規開業者に「不足する医療機能への協力」を求めるが、法的ペナルティはない
• 大阪府は大阪市・豊能・三島・南河内の4圏域、兵庫県は神戸・阪神・淡路の3圏域が該当
2026年4月から新設された「外来医師過多区域」
• 改正医療法(令和7年法律第87号)第30条の18の6に基づく新制度
• 基準は「外来医師偏在指標が全国平均値+標準偏差の1.5倍以上」かつ「可住地面積あたり診療所数が上位10%」
• 国が候補として示したのは全国9医療圏。関西では大阪市・京都市(乙訓含む)・神戸市
• 6か月前の事前届出が義務化され、要請不応諾時には保険指定期間短縮などの法的ペナルティ
つまり、阪神間で6か月前届出の法的義務が直接発生するのは、大阪市と神戸市です。
2. 候補9医療圏の全体像
2026年1月16日の厚労省検討会で公表された候補は以下の9医療圏です。
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地方 |
二次医療圏 |
主な含まれる自治体 |
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首都圏 |
東京都 区中央部 |
千代田・中央・港・文京・台東 |
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首都圏 |
東京都 区西部 |
新宿・中野・杉並 |
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首都圏 |
東京都 区西南部 |
目黒・世田谷・渋谷 |
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首都圏 |
東京都 区南部 |
品川・大田 |
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首都圏 |
東京都 区西北部 |
豊島・北・板橋・練馬 |
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関西 |
大阪府 大阪市 |
大阪市 |
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関西 |
京都府 京都・乙訓 |
京都市・向日市・長岡京市・大山崎町 |
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関西 |
兵庫県 神戸 |
神戸市 |
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九州 |
福岡県 福岡・糸島 |
福岡市・糸島市 |
出典:厚生労働省「第9回 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」(令和8年1月16日)資料
二次医療圏レベルの候補であり、実際の指定は都道府県知事が市区町村・地区単位でさらに絞り込む可能性があります。開業地確定前に、都道府県の外来医療計画で最新情報をご確認ください。
3. 大阪市で開業される場合
手続きの流れ
• ステップ1:開業候補地が過多区域に該当するか確認(大阪府外来医療計画)
• ステップ2:開業6か月前までに、大阪府知事宛に事前届出を提出
• ステップ3:協議の場(大阪府保健医療協議会)への参加・要請対応
• ステップ4:開業後、年1回程度の地域外来医療提供状況の確認
届出事項
• 開業予定の基本情報(所在地、診療科目、開設予定日等)
• 地域外来医療(夜間・休日の初期救急、在宅医療、公衆衛生、医師不足地域での医療提供)への協力意向
• 協力しない場合はその理由
事業承継の特例
親クリニックを急遽承継する場合など、予期せず前任開設者が不在となった事業承継に限り、事前届出義務が猶予されます(改正医療法第30条の18の6第3項但書)。ただし承継後の届出は必要です。相続・承継案件で論点になるポイントです。
4. 神戸市で開業される場合
兵庫県特有の2つの運用
① 外来医療機能に係る報告(従来から運用)
兵庫県は従来から、診療所開設届等提出時までに「外来医療機能に係る報告」の提出を求めています。神戸圏域では従来の「報告」と新制度の「事前届出」が重なるため、両方必要と考えて工程表を組むのが安全です。
② 医療機器の共同利用計画(全圏域・全対象機器で必須)
兵庫県では、CT・MRI等の対象医療機器を新規購入する場合、共同利用計画の作成と外来医療計画推進会議での確認が必須です。新規開業時だけでなく既存クリニックの機器更新時も対象となります。
大阪市・神戸市の比較
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項目 |
大阪市 |
神戸市 |
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6か月前事前届出 |
あり(2026年4月~義務化) |
あり(2026年4月~義務化) |
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従来の運用 |
任意の意向確認 |
開設届時の「報告」義務 |
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協議の場 |
大阪府保健医療協議会 |
外来医療計画推進会議(神戸地域部会) |
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医療機器共同利用 |
運用あり |
全圏域・全対象機器で計画提出必須 |
5. 豊中・西宮など周辺エリアの位置づけ
豊中に拠点を置く当事務所として、ここは特にお伝えしたいポイントです。
大阪府豊能(豊中・吹田・池田・箕面・能勢・豊能)
• 従来の「多数区域」に該当、新制度の「過多区域」候補には含まれていない
• 6か月前届出の法的義務は現時点では発生しない
• ただし大阪府の外来医療計画に基づく任意の協力要請は継続
兵庫県阪神(尼崎・西宮・芦屋・伊丹・宝塚・川西・三田・猪名川)
• 従来の「多数区域」に該当、新制度の「過多区域」候補には含まれていない
• 6か月前届出の法的義務はないが、兵庫県独自の「外来医療機能に係る報告」は引き続き必要
• 共同利用計画は阪神圏域でも必須
2029年頃予定の3年後見直しで、対象拡大があり得る点にはご留意ください。
6. ペナルティの主なポイント
実務上は「罰金」ではなく、信用・資金繰りに効いてくる設計になっています。
① 保険医療機関の指定期間短縮(通常6年 → 3年以内)
要請に応じない、勧告に従わない場合、指定期間が3年以内に短縮されます。次回更新でも改善なしの場合は2年以内とされる類型も示されています。金融機関の融資判断に直接影響するため、事業計画上の最大のリスクです。
② 診療報酬上の減算(令和8年度改定)
指定期間が3年以内の期限付きとなった診療所は、地域包括診療料・加算、機能強化加算等が算定不可となります。売上で年間数百万円単位の影響が出る場合もあります。
③ ナビイでの公表(2026年10月以降開設分)
2026年10月以降に過多区域で開設された無床診療所は、医療機能情報提供制度(ナビイ)で地域外来医療の提供有無や要請・勧告の有無が公表されます。患者の医療機関選択に直結するため、評判リスクが制度化されています。
④ 勧告・公表、補助金不交付
都道府県医療審議会での理由説明、勧告、厚労大臣への通知、医療機関名の公表、補助金不交付なども段階的に発動します。
なお、一度ペナルティを受けても、その後の地域医療提供実績があれば、次回更新時に通常の6年に戻す運用です。挽回は可能です。
7. スケジュール設計と金融機関対応
開業日から逆算したタイムライン(大阪市・神戸市)
→余裕を見たスケジュールです。
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時期 |
やること |
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開業18か月前~ |
エリア選定、過多区域の該当確認、不足医療機能のリサーチ |
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開業12か月前~ |
診療コンセプト・地域貢献メニューの設計、物件仮押さえ、金融機関打診 |
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開業6か月前 |
事前届出の提出(義務) |
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~開業3か月前 |
協議の場への参加、地域医療貢献内容の調整 |
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~開業 |
内装工事、採用、保険医療機関指定申請 |
事業計画に織り込みたいリスク
• 保険医療機関の指定期間が3年に短縮された場合の再審査コスト
• 地域貢献(在宅・休日診療等)に伴う人件費・外部委託費の増加
• 機能強化加算等が算定不可となった場合の収益影響
• 届出から開業までの期間の不確実性(協議の場でのやりとり次第)
こうしたストレステストを事業計画に織り込むと、「制度を理解した開業医」として金融機関からの評価が上がります。
8. さいごに
2026年4月から始まった事前届出制度は、「開業禁止」ではなく「地域医療への関与を事前設計してから開業してください」という制度です。
大阪市・神戸市で開業される先生は、物件選定・融資・採用のスケジュールを届出前提で逆算する必要があります。豊中・吹田・西宮・尼崎など周辺エリアで開業される先生も、従来の外来医療計画上の協力要請は引き続きありますので、地域貢献の設計は避けて通れません。
あさの会計は、豊中を拠点に医業クライアントの開業支援・事業計画・金融機関対応・事業承継をサポートしています。医療分野には看護師資格を持つスタッフも在籍しており、医師会の運営実態や診療現場の感覚も踏まえたご相談対応が可能です。
「届出のことが気になる」「事業計画に地域貢献メニューをどう盛り込めばよいか」「親のクリニックを承継する予定だが事前届出との関係は」といったご相談は、お気軽にお問い合わせください。
参考資料
• 医療法等の一部を改正する法律(令和7年法律第87号、2025年12月5日成立)
• 改正医療法 第30条の18の6
• 厚生労働省「医療法等改正を踏まえた対応について」(中医協 総-2、令和7年12月24日)
• 厚生労働省「第8回 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」資料(令和7年12月12日)
• 厚生労働省「第9回 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」資料(令和8年1月16日)
• 大阪府保健医療計画・大阪府外来医療計画(第5章)
• 兵庫県保健医療計画(第7部 外来医療計画)
• 令和8年度診療報酬改定答申(中央社会保険医療協議会、令和8年2月13日)
※本記事は2026年4月時点で公表されている情報に基づき作成しています。制度の詳細は施行後の省令・通知等で順次明らかになる見込みですので、具体的な開業計画については最新情報をご確認のうえ、専門家にご相談ください。
